自賠責保険ってなぁに?強制賠償責任保険って?

自動車損害賠償責任保険(以下 自賠責保険)は、自動車あるいは原動機付自転車の所有者が、必ず加入しなければならない保険です。交通事故被害者の救済を目的に、加害者が負うべき負担を補填するものです。

「自動車損害賠償保障法」という法律に定められており、加入していなければ一般道を走行することができないと定められています。

自賠責保険加入は義務です

自賠責保険の加入は義務。なので強制的に入らされることから別名「強制賠償責任保険」なんて言い方もするのですね。

対して毎年かけていく保険は「任意保険」といって、自賠責で賄えない補填を行うための保険もあります。

→任意保険とはなんだ?

そして、自賠責保険に加入しなければ車検に通りません。当然一般道を走ることができなくなるのです。

また自賠責保険は、251cc以上のバイクや自動車であれば車検ごと、250cc未満のバイクであれば任意の期間で契約更新となっていますが、もし更新せずに期限が切れたまま一般道を走行すると「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が課せられます。

しかも無保険状態での走行は、道路交通法ではなく道路運行法違反となり、違反点数が6点で即座に免許停止となるのです。

さらに、自賠責保険の加入証明書を携帯せずに走行すると、それだけで30万円以下の罰金が科せられるという、非常に厳しい処分となりますので注意が必要です。

自賠責保険の保険料は決まっています。手続きする保険会社、代理店などで金額が変わることはありません。通常は自動車販売店や損害保険会などで加入します。

自賠責保険だけで補償は大丈夫?

交通事故被害者救済が目的ではあるのですが、その補償されるのは「人間」だけです。これは、自動車損害賠償保障法において、「自賠責保険の補償範囲」として定められています。

建築物、車(自分の車も含めて)、公共交通機関(バスや電車)などに損害を与えたとしても、自賠責保険からは全く補償がありません。つまり、人間への補償以外はすべて自己負担なのです。

ちなみに、人間に対する補償は、以下の通りです。

傷害(治療費・休業補償・慰謝料) 120万円

死亡(治療費・慰謝料・葬儀費用・逸失利益) 3,000万円

後遺症障害(治療費・逸失利益)4,000万円

ただ、事故の状況によっては賠償金が高額になることもあります。しかも、自分自身が怪我をしていても、それは全く補償されません。実際に賠償金が高額になった事例を紹介しましょう。

平成23年11月1日 横浜地裁  被害者41歳男性(眼科開業医)     5億843万円(死亡)
平成23年2月18日 名古屋地裁 被害者21歳男性(大学3年生)      3億7,829万円(後遺障害等級1級1号)
平成17年5月17日 名古屋地裁 被害者33歳男性(会社員) 3億6,756万円(後遺障害等級1級3号)
平成19年4月10日 大阪地裁  被害者23歳男性(会社員) 3億5,936万円(後遺障害等級1級1号)
平成18年6月21日 大阪地裁  被害者38歳男性(整形外科・内科開業医)3億5,250万円(死亡)

このように、死亡または重い後遺症障害がある場合には、自賠責保険だけでは到底支払うことができません。したがって、自賠責に加え、任意での自動車保険への加入が重要なのです。

3.慰謝料も含まれている?

慰謝料は、精神的損害を対象に支払う賠償金です。自賠責保険でも支払い対象として認められています。交通事故で人に怪我をさせてしまった場合、治療費などに加えて慰謝料の支払いが必要な場合もあります。

自賠責保険では、治療費・文書料・休業補償・慰謝料などの合計で最大120万円が限度額です。慰謝料は、治療費などとは別のようなイメージを持つ方が多いかも知れません。しかし、実際には慰謝料も損害賠償の一部として扱われています。

4.自賠責保険の補償対象は?

先述した通り、自賠責保険で補償対象となるのは「人間」だけです。しかも、「他人」とされています。

ここで言う「他人」とは、血縁関係とは関係ありません。「運転手、運行供用者以外」を指します。「運行供用者」というのは、主に事故を起こした車の名義人です。

例えば、タクシーの場合にはタクシー会社です。車を借りて事故を起こしてしまった場合には、その車の所有者が運行供用者となります。

では、車の名義人である人が事故を起こし、同乗していた家族が怪我をした場合はどうなるのでしょうか?

その場合は、事故の状況にもよりますが、運転者以外は自賠責保険からの補償対象になるのが一般的です。注意するべきなのは、自分が運転していなくても、運行供用者として責任を負うということです。

自賠責保険は、補償対象が限られている上、支払われる金額に限度があります。しかも、決して十分な額とは言えません。事故を起こすということは、自らの怪我だけでなく、車の損傷は補償されず、しかも借りた車であれば、車の所有者にまで責任を負わせることになってしまうのです。

5.保険料と保険期間

自賠責保険の保険料は、損害保険料率算出機構が定めています。損害保険料率機構は、全国に自賠責損害調査事務所を持ち、中立で公正な損害調査を行っています。その膨大なデータを基に、自賠責保険の料率が設定されています。

また、保険料の収入と支出のバランスを保つために料率は調整されます。

参考までに、2020年4月1日現在の保険料を紹介しておきます。

保険期間   12ヶ月  13ヶ月  24ヶ月  25ヶ月  36ヶ月  37ヶ月

自家用乗用車 13,410円 14,090円 21,550円 22,210円 29,520円 30,710円

軽自動車   13,210円 13,870円 21,140円 21,780円 28,910円 29,550円

小型二輪    7,420円 7,610円  9,680円 9,870円 11,900円 12,080円

原付自転車   7,060円  ー 8,950円   ー 10,790円   ー

※離島以外の地域(沖縄県は除く)に適用
※2020年4月1日以降に保険期間が開始される契約に適用

先にも申し上げた通り、自賠責保険に加入していなければ、そもそも車検に通りません。自家用乗用車の場合には、購入後初回が3年後、以降は2年ごとに車検を受けなければなりません。

25ヶ月、37ヶ月という期間設定は、車検の有効期間中に自賠責保険が未加入の状態にならないよう設けられています。

6.期限が切れていたら・・・

もし、自賠責保険の期限が切れている時に事故を起こした場合はどうなるのでしょうか?

その場合、被害者への補償はすべて自己負担になってしまいます。

高額な賠償金が命じられた場合、被害者に損害を与えるだけでなく、自分自身にも大変な負担を強いることになります。交通事故による被害者救済はもちろん、ご自身のためにも自賠責保険の期限切れ(車検切れ)には十分に注意してください。

たとえ、任意保険に加入し、しかも「対人無制限」という契約なので大丈夫、ということにはなりません。

例えば、損害賠償金額が1億円だとしましょう。その場合、自賠責で3,000万円、任意保険から7,000万円という形で支払われることになります。

もし、自賠責保険が未加入状態であれば、3,000万円は自己負担になるのです。

ぜひ、自賠責保険と任意保険の両方に加入しておくことをおすすめします。

7.バイクや原動機付自転車も加入は義務?

バイクや原付も、自賠責保険への加入は義務です。加入手続きは、コンビニエンスストアで行うことができます。

もし、バイクや原付の自賠責保険が切れていても、車検証を持ってコンビニエンスストアに走ればすぐに加入できます。ただし、自動車はコンビニエンスストアでの加入ができませんので注意してください。

8.被害者から損害賠償請求ができる

自賠責保険は、交通事故被害者の救済を目的としています。そのため、加害者からの賠償が十分ではない場合、被害者から請求することが可能です。

これは、自動車賠償責任保障法第16条に定められている権利です。

手続きとしては、まず損害保険会社に対して自賠責保険の請求書類を提出します。

損害保険会社はその書類を受領して、それを損害保険料率算出機構に送ります。

その後、同機構の調査事務所による損害調査が開始され、調査結果に基づいて保険金額が決定されます。

請求者には、決定された金額が自賠責保険金として支払われることになります。

ただ、請求するには、多くの必要書類を用意しなければなりません。

また、加害者が加入している自賠責保険会社を確認する必要があります。それは、加害者の車にある「自動車損害賠償責任保険証明書」に記載されています。

会社が確認できれば、必要な書類や手続きを問い合わせ準備しましょう。

参考に、必要書類の一般例を紹介しておきましょう。

・自賠責保険支払い請求書
・交通事故証明書
・事故発生状況報告書
・死体検案書または死亡診断書
・医師の診断書
・診療報酬明細書
・被害者本人の印鑑登録証明書
・戸籍謄本(全部事項)
・除籍謄本(全部事項)
・加害者が賠償済みの領収書
・通院交通費明細書

さらに、もし後遺症障害がある場合、後遺障害等級認定によって傷害を対象にした賠償とは別に損害賠償請求をすることができます。実際、治療を継続してもそれ以上の回復が見込めず、しかし増悪もない状態になって症状が固定された段階で「傷害部分」と「後遺障害部分」に分けた請求が行われます。

後遺症は、病院の診断を基に「後遺障害等級認定」が確定します。上述の高額賠償金判決が出た事例では、後遺障害等級がかなり高く認定されています。

この手続きに必要な書類は、請求者が用意しなければなりませんが、難しいようであれば弁護士等に相談し、依頼することをおすすめします。

9.契約内容の変更や再発行の手続き

自動車を人に譲る、転居で住所が変わる、といった場合には、自賠責保険の契約内容の変更手続きが必要になります。必要な書類や手続きに関しては、保険会社に問い合わせて指示に従えば問題ありません。

もし自賠責保険の名義を変更しないまま人に譲った場合、所有者と保険契約者が異なる状態になります。譲渡、売却などの際には、必ず名義変更の手続きを行いましょう。

また、自賠責保険の証書(自動車損害賠償責任保険証明書)は、必ず車内に携帯していなければなりません。もし紛失したり盗難に遭ったりした場合には、保険会社に依頼すれば再発行が可能です。

10.解約と還付の手続き

さて、最後に廃車にした場合です。もちろん、自賠責保険は必要ではありません。保険会社に連絡し、解約手続きをします。電話や、保険会社のホームページ上で受付をしています。

解約した場合、還付請求で支払い済みの保険料の一部が返してもらえる場合があります。必要書類は以下の通りです。

自動車損害賠償責任保険証明書

一時抹消登録証明書または登録事項等証明書申請

二番目の「一時抹消登録証明書」「登録事項証明申請」は、廃車したことを証明するために必要な書類です。

申請日から契約期間満了日まで、月割りで算出された金額が還付されます。廃車される方はお忘れなく。なお、この還付制度は自動車税や自動車重量税でもあります。車検の有効期間が1ヶ月以上残っている場合に還付の対象になります。ただし、対象になるのは「乗用車」で、軽自動車は対象外です。

また、自動車重量税の還付を受けるためには、「永久抹消登録」が必要です。つまり、解体処分です。自動車税や自動車重量税の還付については、手続きは住居地を管轄する運輸支局で行います。