ホンダのVTECエンジンとは?

VTECとはかんたんに言うとエンジンの機構のこと。公式では「パワーと環境性能を両立させるための技術」と言われています。

VはVariable valve(バリュアブルバルブ)、TはTiming and lift(タイミング&リフト)、EはElectronic(エレクトロニック)、CはControl(コントロール)の意味で、それぞれの頭文字を取ってVTEC。

引用:ホンダ公式

バルブのタイミングとリフト量を電子的にコントロールして、出力を向上させたり燃費を良くしたりする仕組みを持つエンジンのことです。

エンジンは、低回転時には混合気を少しだけ吸い込み、高回転時にはたくさんの混合気を吸い込むことで燃費もよくなり、さらにパワーも上がるという特性を持っていますが、それをさらに強めるための機構がこのVTEC。ここからはさらに魅力に迫っていきましょう。

VTECはどんな機構・構造なの?

VTECは、カムシャフトに「仕掛け」があります。

高回転用と低回転用の「形状が異なるカム」が組み込まれており、エンジン回転数が高い時は高回転用、低い時は低回転用に切り替わる仕組みになっていて、この仕組みによってバルブが開く(リフト)量が変化(バリュアブル)するのです。

引用:https://www.honda.co.jp/tech/auto/vtec/

DOHC-VTECを例にしてお話すると、1気筒あたりのカムシャフトに低回転カムが2個、高回転カムが1個の合計3個のカムがあります。

VTEC切り替わる回転数までは、高回転カムが切り離されていて作用しません。

引用:ホンダ公式サイト

エンジンが高回転域に入ると、特殊なロッカーアームの内部のキングピンが押され、3つのロッカーアームが1つにつながります。すると空振りしていた高速用カムが駆動し、大きくバルブが開かれ、エンジンシリンダー内にたくさんの空気を吸い込めるようになるのです。

より多くの空気がシリンダー内に入ると、より大きな爆発になるのでパワーが出る。

これが、低回転域では少しの空気を入れてロスを無くし、高回転域ではより多くの空気を入れることでパワーを上げるという、エンジンにとっては理想の仕組みというわけです。

VTEC誕生の歴史

VTECが誕生した当時は、技術の向上もあって「より高回転で回せる」エンジンが作れるようになっていました。ですがバルブリフトの量は常に一定だったため、低い回転数での適切なリフト量、高い回転数での適切なリフト量を選べず、低回転型か高回転型のどちらかに的を絞ってエンジンを作る必要がありました。

そこで、回転数に応じた吸入量を調整できるVTECエンジンの開発が進められたのです。

初代VTECはB16A型として誕生

開発スタートは1984年。開発陣はNA(自然吸気)エンジンでリッター当たり100馬力を目標に進められ、ようやく市販車に搭載されたのは5年後の1989年4月のこと。車種は2代目のインテグラでした。

初期のVTECは、DOHCエンジンでB16A型と名付けられ、吸排気両方で高回転と低回転で二つのカムが切り替わるシステムでしたが、開発が進むにつれ、より複雑で高効率なものに変わっていきます。

シビックを中心に搭載されるようになっていく

次に誕生したのがSOHC-VTEC。エンジン型式はD15Bとされ、吸気側のバルブリフト量のみ制御したもので、1991年の5代目シビック(グレードはVTi)に採用されました。

その後6代目シビックには3ステージVTECと呼ばれる、低回転・中回転・高回転の3段階でカムが切り替わるシステムが採用され、更に細かく制御することで、今までよりもかなりの高出力が得られる様になりました。

さらに開発が進みi-VTECと進化をします。頭文字のiはインテリジェントで高知能システム搭載型となり、様々なバリエーションが登場します。

VTECを応用し、2003年インスパイヤに搭載されたV6エンジンでは、低回転時に片側3気筒を停止させるものや、2005年のシビックハイブリッドでは、低回転時に全気筒を停止させモーターのみで走行する低燃費型も登場します。この頃になると環境問題も大きくなり、ただ出力を上げるだけでなく、より低燃費な環境配慮型へと進化していきました。また同年、A-VTECという連続的にリフト量が制御できるシステムが開発されましたが、まだ記述の熟成が進んでいないためか、今日まで搭載された車種はありません。

最新のVTECは、小さな排気量のエンジンにターボを組み合わせて、環境問題に対応しながらも高い出力を得られる特性となりました。

歴代のVTECエンジンを見てみよう

ここでは、名機と称されたVTEC搭載エンジンを、搭載車種と合わせてご紹介します。

B16Aはインテグラやシビック、CR-Xなどに

搭載車種:インテグラ1989年、シビック1991年、CR-Xデルソル1992年
最高出力: 160PS/7,600rpm
最高トルク: 15.5kgm/7,000rpm

最初のVTECエンジンは1,600ccのB16A型。単純に高回転、低回転で2つのカムで制御されました。

7,600回転で最高出力を得て、レブリミットの8,000までスムーズに吹け上がった、VTECの歴史がここから始まったと言っても過言ではないエンジンです。

B18CはインテグラのタイプRに

搭載車種:インテグラ TYPE-R
最高出力: 200PS/8,000rpm
最高トルク: 18.5kgm/7,500rpm

初期のVTECと同じシステムを採用しながらインマニやピストン、バルブ形状を変更して8,000回転という超高回転域で最高出力を発生。当時のF1のエンジンよりピストンの上下運動が速いと言われていました。

1,800ccの自然吸気エンジンとしては初めてリッター100馬力以上を達成し、他メーカーは真似できないほど高回転高出力のエンジンでした。

C30Aは初代NSXへ

搭載車種:NSX1990年
最高出力: 280PS/7,300rpm
最高トルク: 30.0kgm/5,400rpm

3リッターV6エンジンにVTEC機構を組み合わせ、当時の自主規制280馬力を発生。そのポテンシャルは非常に高く、レース界でも大活躍したエンジンです。

F20Cは頭文字Dにも出てきたS2000に

搭載車種:S2000 1999年
最高出力: 250PS/8,300rpm
最高トルク: 22.2PS/7,500rpm

フリクションロスを最大限減らすための「新開発ロッカーアーム」が組み込まれ、超高回転エンジンで高レスポンスを得ました。S2000は前期型のエンジンのほうがよく回るんですよ。

K20Aでシビックもついに2リッターへ

搭載車種:インテグラ TYPE-R 2001年、シビック TYPE-R 2001~2009年
最高出力 225PS/8,000rpm
最高トルク 21.9kgm/6,100rpm

自然吸気エンジンとしては当時最高峰の出力で、カムが切り替わる5,800回転からレッドゾーンまで突き抜ける様な爽快感が得られました。VTECシリーズとしては、比較的長く生産されたエンジンですね。

K20C

搭載車種:シビック TYPE-R 2015~2017年
最高出力: 320PS/6,500rpm
最高トルク: 40.8kgm/2,500-4,500rpm

FFで「市販車世界最速」を目標に開発され、VTECにターボが組み合わされました。驚きの320PSというスペックと同時に、シビックは名実ともにFFで敵なしとなったのです。

VTECのメリット・デメリットとは

VTECサウンドと呼ばれる官能的なエンジン音は、VTEC乗りだけでなく、助手席に乗った人まで魅了する。

なんて言われますが、もちろんサウンドだけじゃなく、VTECは低回転でもトルクを発生し、高回転ではどこまでも伸びていきそうで、胸のすくような加速感が味わえます。

ですがその一方、一般的なエンジンと比較するとどうしても構造が複雑で、構成パーツも多く、重量が増してコストもかさむ…。カムの切り替わる時にエンジンの特性が変わるため、回転域や選択したギア比によっては扱いにくい、乗りにくいといったデメリットもあります。

さらには高回転型エンジンが故に、スポーツ走行でシフトミスがオーバーレブにつながり、命取りになってしまうなどの声も。

ですがそうしたマイナスな声をかき消すかのように、誰もがワクワクするエンジンがVTEC。一度乗ったら病みつきになる方、多いようですよ。

二輪のVTEC

HYPER VTECという名称で呼ばれ、今まで記載してきた四輪の物とは構造が異なり、低回転では対角線上の吸排気2バルブが開いてトルクを稼ぎ、高回転時には全てのバルブが開き4バルブとなって高出力が引き出せるようになっていて、音の切り替わりも楽しめるものとなっています。

他社のシステム

ホンダ以外にもVTECのようなシステムを採用し、違う名称で販売されている物もあります。

代表的な名称がこちら。

  • トヨタVVT-i
  • ダイハツD-VVT
  • 日産NVCS
  • マツダS-VT
  • スバルAVCS
  • スズキVVT
  • 三菱MIVEC

VTECは素晴らしい出力特性と、環境に優しいエンジンとして地位を築き上げています。歴代VTECも名機として語り継がれ、レース界でも活躍しており、市販車へのフィードバックも大いに期待をしたいところ。

また、高回転で回るエンジンサウンドは甲高く独特で、これからも車好きの人々の感性を揺さぶる続けていくのは間違いありません。